11年救急隊、そのうち4年救急救命士(隊長)をやっていた空飯(→プロフィール)です。
今回はこんな質問がLINEから届きました。
いつも、本当にありがとうございます(*´▽`*)
私も救急救命士になったばかりの時は、何をどこまで申し送りしていいのか分からず困りました。
はじめは、病院連絡の時に話したことをまた繰り返せばいいのかと思っていました。
救命士の方々がどんな申し送りしているのか、具体例を紹介していきますね!
今回は、私が現役だった頃のお話を交えながら疑問に答えていきます。
最初から、疾患別のテンプレートがあるので参考にしてみてください。(具体的です)
後半でより詳細な、医師に伝える情報となぜ伝えるのかについて解説していきます。
そして、この記事を読むことで
病院到着後、医師に何を伝えたらいいのか分かります。
ぜひ最後まで読んでください。
↓早速結論です。ここを意識しよう!
- 個人情報
- 詳しい現病歴
- 搬送中に変化があったこと
- 車内でのバイタル
- 現在の処置内容
- 現場の状況
- 救急隊が観察した所見
- 家族歴・家族構成
- 既往歴・かかりつけ・手術歴
- 最終食事
- 薬
- ADL【日常生活動作】
- DNARの有無
- 同乗者の有無
- 救急隊員の方
- 救急救命士を目指している方
- 医師への申し送り内容が知りたい方
さっそく具体的な申し送り内容です↓
【疾患別】医師申し送りのテンプレート
疾患別に、どのような事を伝えたらよいのかテンプレートを作りました。
参考にしてみてください。
外傷テンプレート
- 名乗る
- 傷病者情報
- 現病歴、所見
- 状況
- 薬
①○○救急隊です。お願いします。
②〇〇太郎さん85歳の方です。
③自動車の運転操作を誤り、店舗に衝突したものです。現在も左胸部の痛みを訴えています。
全身観察、詳細観察で左第三・第四肋骨に圧痛ありです。
気管の偏移や皮下気腫はありません。
意識状態は事故時から変化なしで、救急車内でのバイタル異常はありませんでした。
詳細観察は胸部までは観察できました。
④(写真を見せて)車両前方に損傷があり、シートベルトは付けていて、エアバックは作動している状況でした。
⑤お薬手帳は持参なしですが、高血圧の薬を飲んでいるとのことです。
- 写真があると状況が伝わりやすいよ。
- 写真を撮ることができなかった場合は、図にして医師に伝えると分かりやすいよ。
- 観察は出来たところまで伝えることが重要だよ。
- Af(心電図心房細動)有無やワーファリンの服薬は出血量に関係してくるから重要な情報だよ。
消化器系疾患疑いのテンプレート
- 名乗る
- 傷病者情報
- 現病歴や所見
- 処置やバイタル
- 既往歴、かかりつけ、薬
①○○救急隊です。お願いします。
②○○洋子さん75歳の方です。
③本日16時に大量の下血があり、現在右腹部痛を訴えています。ブルンベルグ徴候ありです。
④心肺停止前輸液を実施して、右撓側皮静脈に20Gで静脈路確保済み、急速輸液で流してあります。(経過のバイタルを見せながら)急速輸液を開始してから、血圧は上昇してきてますね。
⑤既往歴は心房細動で○○病院かかりつけ。お薬は、電話でもお話したとおり、抗血栓薬を服用しているようです。
出血がある場合、抗血栓薬やβブロッカーなどを服用していないか伝えることも重要だよ。
心疾患疑いのテンプレート
- 名乗る
- 傷病者情報
- 現病歴や所見
- 処置やバイタル
- 薬
①○○救急隊です。お願いします。
②○○太郎さん70歳の方です。
③本日18時、散歩から帰宅した際に胸痛が発症しました。救急車内の問診で分かったんですが、昨日17時にも同じような胸痛があり3分ほどで消失したとのことです。
現在も胸痛は継続中。最悪の痛みを10として現在は5程度です。(心電図を見せながら)救急車内の心電図では、Ⅱ、Ⅲ、aVFでST上昇が認められています。
④救急車内でSPO2が100%を継続していましたので、酸素5ℓ/minまで落として98%です。(バイタルの経過を見せながら)救急車内でのバイタル変化はこちらです。
⑤お薬手帳お渡ししておきます。
- 搬送中に判明したことも、このタイミングで伝えよう。
- 胸痛では12誘導心電図はマストだね。
脳疾患疑いのテンプレート
- 名乗る
- 傷病者情報
- 現病歴や所見
- 処置やバイタル
- 既往歴、かかりつけ、薬
①○○救急隊です。お願いします。
②〇〇幸子さん65歳の方です。
③本日7時に食事を作っていたところ頭痛があり、その後激しい嘔吐がありました。ですので、発症時間は7時となります。
発症から現在まで意識状態に変化はありません。瞳孔所見については両眼3mmで変化なしです。CPSS該当なし、心電図についても、特異所見はありません。
④搬送体位は脳疾患を疑い、セミファーラー位で安静搬送してきました。(経過のバイタルを見せながら)搬送中の血圧はかなり高いですが、脈拍の異常はなさそうですね。
⑤既往歴は糖尿病があり、インスリンの自己注射をしています。かかりつけは○○病院です。
時間があれば、お手伝いをしながら、CTまでついて行き、疾患の答え合わせをしよう。
意識障害のテンプレート
- 名乗る
- 傷病者情報
- 現病歴や所見、バイタル
- 処置や最終食事
- 既往歴、かかりつけ、薬
- ADL
①○○救急隊です。お願いします。
②〇〇花子さん87歳の方です。施設入居者です。
③本日17時に入浴をしていたところ、急に意識消失しました。水の誤嚥、誤飲はなく、このように意識がなくなることは、今回と合わせて2回目だと施設職員から聴取しております。
④救急隊到着時から変わらず意識レベルJCS200、GCS E1V1M4です。
(経過のバイタルを見せながら)接触時から血圧は低いですね。心電図は不整脈がみられます。瞳孔所見は異常なしで変化もありません。意識消失時の外傷はなく、倒れる前の訴えもありません。感染症を疑う所見もありません。
あと、先ほども電話で話したとおり、現場で血糖測定をしたところ75㎎/㎗でした。最終食事は本日12時です。
⑤この方ですが、認知症、糖尿病、心不全で○○病院かかりつけです。こちらお薬手帳です。
⑥ADLについては、杖をついて歩いて、食事や排泄、入浴は一部介助が必要です。
- 意識障害=脳疾患ではなく、様々な角度から意識障害の鑑別を行おう。
- AIUEOTIPS(アイウエオチップス)を用いて鑑別しよう。
- 高齢者や認知症がある方は、ADLの情報を伝えよう。
病院が欲しい情報とは?
救急隊は、自分達だけが欲しい情報だけ聴取していればいいわけではありません。
なぜなら、搬送する先が病院だからです。
ただ、搬送するだけならタクシーと変わらなくなってしまいます。
病院が欲しい情報は上記のとおりです。
まだまだあるかもしれません・・・・
それでは、14のポイントを詳しく見ていきましょう。
①個人情報
これは、救急隊だけではなく、病院も必ず必要になります。
病院側は個人情報からカルテを開き、患者の情報を得なければなりません。
間違いのないように、正確に伝えましょう。
②詳しい現病歴
病院連絡時には、ざっくりとしか分からなかった現病歴を詳しく伝えましょう。
【補足】現病歴とは
今回発生した症状が、いつ、どこで発症し、どんな症状がどう経過をしてきたのか情報をまとめたもの。
病院側もカルテに残さなければなりません。
傷病者が何度も話さなくていいように、しっかりと申し送りを行いましょう。
③搬送中に変化があったこと
病院搬送中に、傷病者に変化があった場合は、その変化を医師に伝えましょう。
電話で伝えることができなかったことを、ここでは伝えましょう。
- 意識レベルの変化
- 嘔吐
- 瞳孔、偏視の変化
- 出血の変化
- 症状の増減
- etc・・・
また、何も変化がなかった時も、変化がなかったことを話しておきましょう。
④車内でのバイタル
救急車内でのバイタルは重要です。
病院でも、もちろんバイタルを測定しますが、変化が重要です。
病院到着後のあるあるですが・・・・
こんなことは、結構あります。
医師にバイタルを一覧で見せて、変化を伝えましょう。
⑤現在の処置内容
主に、酸素投与をしている場合は、どれだけの量を流しているのか伝えましょう。
⑥現場の状況
現場の状況を伝えるのも、救急隊の役目です。
医師は、現場を確認できませんからね。
外傷の場合は写真を見せ、どこから、どのくらいの外力が加わったのかを確認してもらうことも大切です。
また、一般住宅の場合は、生活環境を伝えることも大切です。
- しっかりと掃除がされており、生活に問題なさそうだった。
- 部屋は荒れており、生活環境は劣悪だった。
⑦救急隊が観察した所見
救急隊が、接触から病院到着までに観察した所見を伝えましょう。
例えば・・・
- CPSSの評価
- 瞳孔
- 偏視の有無
- 半側空間無視
- 失語
- 脈の不整
詳細観察、継続観察で発見した新たな外傷や変化、どこまで観察したのかなど・・・・
時間が限られている、救急活動ですので、出来たところまでを正確に申し送りしましょう。
「これは〇〇っぽいな・・・」という考えから別の疑わしい疾患を否定する所見を取りにいったり、フォーカスを当てている疾患の裏付けするエピソードを家族等に聞きに行くことができたら良き救命士です。
⑧家族歴・家族構成
活動中に時間があれば、身内に脳卒中、心臓病、糖尿病、高血圧などの人がいないのか聴取し、医師に伝えましょう。
家族歴でこれらの疾患の人がいる場合、傷病者もリスクを抱えていることがあります。
同じ遺伝子を持ち、沢山の時間を共にしている家族は同じ病気になりやすいと言われています。
⑨既往歴・かかりつけ・手術歴
既往歴やかかりつけは、救急隊も必ず聴取しますね。
病院連絡時に伝えられなかった場合は、必ず伝えるようにしましょう。
しかし、意外に漏れがあるのが手術歴です。
傷病者は、手術を病気ととらえていないことが多くあります。
病院に着いてから・・・
なんてことは、結構あります。
⑩最終食事
救急隊が、必ず聴取する最終食事ですが、何のために聴取するのかさっぱりでした。
しかし、最終食事は病院にとって大切な事だと、救急救命士になってわかりました。
緊急オペとなった時の、麻酔方法に違いがでてきたり・・・
検査方法に違いがでてきたりと、救急隊としては一見関係ないことでも、病院では大切になってきます。
⑪薬
薬の情報は、病院側もとっても大切です。
病院には、お薬手帳があれば持参し、医師に渡しましょう。
お薬手帳がない場合は、薬を持参し医師に伝えることが必要です。
他にも診察券や保険証、免許証、貴重品など、重要なものがなくならないように1つのスライド式ジップロックなどにまとめておくと色々と便利です。
⑫ADL【日常生活動作】
高齢者を搬送する場合、救急隊はADLを確認する機会が多くあります。
そして、病院に到着してからも、医師から必ずと言っていいほど聞かれます。※地域差はあるかもしれません。
最低でも、移動、食事、排せつ、入浴がどれくらいできるのかは、医師に伝えることを心がけましょう。
医師は、ADLをもとに、治療方針や予後を予測していきます。
【補足】ADLとは
日常生活を送るために、最低限度の日常動作のこと。主に、高齢者や障がい者の方に用いられる指標。移動、食事、排せつ、入浴、起き上がり、車いす等への移乗等がどの程度できるかを表す。
⑬DNARの有無
高齢者で重症の場合、DNARの有無が分かれば、医師に伝えておきましょう。
医師にとっても、今後の治療方針決定の役に立ちます。
⑭同乗者の有無
病院にとって、家族が病院に来ることができるかは、大きな問題です。
手術が必要な場合、インフォームドコンセントや同意書への記載が必要だからです。
病院に到着したら家族が一緒に来ているか伝えましょう。
来ていないなら、いつ家族が来るかを病院関係者に伝えることも大切です。
医師によって欲しい情報は様々
- とにかく情報を欲しがる先生
- 無駄な情報はいらないという先生
- 初めから救急隊から情報を聞く気のない先生
- 救急隊の意見を真摯に聞いてくれる先生
そして、経験とともに先生への対策と傾向が分かってきます。
多くの情報はいらないという先生には、伝えなければならない情報を取捨選択し、無駄な時間を取らせないように心がけましょう。
日頃から医師、看護師、事務員とコミュニケーションをとっておく
日ごろから様々な人とコミュニケーションをとっておくことで、得なければならない情報や相手が欲しい情報を知ることができます。
挨拶からコミュニケーションが生まれる
挨拶は基本ですが、出来ていない方もいます。
日ごろから
- お疲れ様です。
- ありがとうございます。
- 救急隊これで失礼します。
しっかりとあいさつをすることで、コミュニケーションが生まれます。
たわいもない話から、最近の病院事情を聞くことができます。
病院実習で相手が求めていることを聞く
病院実習は院内の事をよく知ることができます。
医師が何を患者に聞いているのか、この病院実習の時にしっかりと勉強しましょう。
また、医師に直接質問をすることも大切です。
何を救急隊に求めているのかを、うまく聞き出してみてください。
勿論、忙しい時に聞くのではなく、ちょっと時間がありそうなときにしましょう。
気遣いが円滑な申し送りにつながる
傷病者を搬送した際、ちょっとバイタル測定を手伝うことや、検査までお手伝いをするだけでもコミュニケーションを図ることができます。
なかなか、忙しくてそこまで手伝いができないことがありますが・・・・
ちょっとした気遣いから、顔と名前を覚えてもらうことが、円滑な申し送りにつながります。
まとめ
今回は、病院到着後の医師への申し送り内容についてお伝えしました。
実際、申し送りの内容については、救急救命士によってかなりばらつきがあると感じています。
情報が少なすぎる方もいますし、無駄に多すぎる人もいます。
後者の場合ならまだしも、少なすぎる方は聴取内容を見直すことをオススメします。
え?こんなことまで聞かないといけないの?これ救急隊の役目?と思うかもしれません。
しかし、病院があってこそ救急隊は仕事ができます。
お互いに理解し合うことで、円滑な救急活動につながると感じます。
今回の記事が参考になれば幸いです。
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皆さんどんなことを話しているのか気になります。