場所はその時勤務していた出張所から北にはるか20kmの位置。
中年の男性。高所からの転落。意識はあります。
という内容。
この事案、ちょっとヤバいね・・・。三次病院まで現場から50kmもあるよ・・・。
僕は病院までの距離と受傷機転から、すぐにヘリコプター(消防防災ヘリ)を要請しました。
それは、三次病院対応を視野に入れていたからです。
こんにちは、救命士学習塾講師のHARUです。今回の話はこんな感じです↑
興味ある方は読んでくださいね^^
ところで、
僕も塾長と同じで救急救命士東京研修所(エルスタ)の卒業生です。
救急救命士の運用が始まってから10年以上のキャリアを持ちます。
今回は”ドクターヘリの搭乗”について語ろうと思います。(以下、ドクヘリ)
ドクヘリって要件がそろわなければ要請することができません。。
しかし、いざ要請となれば、ヘリとの活動はめったいないので、絶対にとまどいます。
(もちろん地域によります。病院まで人のかかる地域であればドクヘリを毎回のように呼ぶ地域もあるかと思います)
それなので、僕がヘリコプター搭乗の経験から得たことをお伝えします。
参考にしてみてください!!
・ドクターヘリ要請に興味のある人。
・救急車内の活動との違いを知りたい人。
・ドクヘリの活動実例を知りたい人。

HARUの救命士歴10年の中で、ドクターヘリの要請はどれくらいあるの??

血小板ちゃん、質問ありがとう。僕は5回くらいあるかな!!
その5回は、三次病院から離れた出張所で勤務をしていたときで、重症事案が発生したらヘリコプターを考慮することが多かったんだ!!
普通に救急車で搬送した場合、1時間くらいはかかってしまうからね。

重症傷病者の搬送に1時間もかかっていたら、救命できなくなるね・・・。
でも、ヘリコプターを要請しようとしたら、その判断に迷いがでてきそうだよね・・・。

その判断が鈍ってしまったら、傷病者にとって不利益しかもたらされないことになるんだ。
結果的に、重症者の生死を左右するのは、現場救命士の判断力になると思うよ。
ただ、血小板ちゃんが考えるように、ヘリコプターの要請の可否について知っておけば、一人でも多くの命を救命することができるんだ!!
ぼくの、経験をお伝えできたら、あなたの経験としていきてくると思うんだ!!
この記事は、「救急救命士のヘリコプターの搭乗」として4つにまとめました。
解説していくね!!
目次
現役救命士HARUの体験談‐顔面打撲は気道閉塞に注意!!‐

「救急指令、救急指令。労災事故」
この指令で僕は出動しました。
場所はその時勤務していた出張所から北にはるか20kmの位置。
もちろん、病院からもそれだけ遠いことを意味します。

と、心の中で思いながら、救急車に乗り込みました。
開局し、指令内容を聞きます。
すると、

という内容。

僕は病院までの距離と受傷機転から、すぐにヘリコプター(消防防災ヘリ)を要請しました。
それは、三次病院対応を視野に入れていたからです。
現場到着までもかなりの時間があります。それなのでありとあらゆることを考えました。
全身固定はもちろんのこと、生理学的、解剖学的評価を見落とさないように隊に周知しました。もちろん最悪なことも想像しながら…。
車内に緊張感が走ります…。
どうか、無事でいてくれ…。
そして現場到着。

どういった事故ですか??

現場は、建設中の工場で、5mの高所から転落したものでした。
傷病者に近づきます。


体中が痛い・・・。
と弱々しい感じです。
受傷機転は、指令内容のとおり、顔面から転落でした。
生理学的評価で、意識はっきりしていて、ショックはありませんでした。
解剖学的評価は鼻からの出血、後頸部痛がありました。また、両上肢の変形もありました。
体幹を観察したら、胸の痛みのみでした。聴診器で呼吸音に左右はなかったので、とりあえず、肺の損傷はないかなと思いました。
また、幸いにも四肢には、麻痺なかったです。
バックボードに固定して、車内収容し、保温、酸素投与を行い、ヘリコプターとのランデブーポイント(合流ポイント)に救急車を走らせました。
そこには、すでにヘリコプターがきていて、病院からピックアップしたドクターもいました。
(今回はドクヘリではなく、消防の防災ヘリです)

と言われたので、内容を伝え、処置に入りました。


だけど、僕は「意識あるのに、どうして気管挿管なんだ??」って思いながら介助をしました。
気管挿管をするに当たり、点滴、麻酔、筋弛緩剤と処置が進んでいきます。そして、気管挿管が完了し、

と、いわれたので、

指示通り搭乗しました。
最初にお伝えしたとおり、ヘリコプターの搭乗は、過去に5回ほどありました。ただ、ドクターと処置をしながらは初めてだったので、ただならぬ緊張感がありました。

僕は呼吸管理を任され、BVM(人工呼吸器)をもみ続けました。
決してこの傷病者の命を閉ざしてはいけないと思い渾身の思いで揉んでいました。
気流の変化で時々ヘリコプターが揺れます。この揺れが普通と違うことが、3Dに揺れます。まさに味わったことのない揺れで、縦、横、そして斜めにも揺れます。
ただ、揺れてもいいように機体に体を固定していたので、揺れ事態で僕が体勢を崩すことはありませんでした。
そして、病院到着。すぐに処置が開始され、ICUに入っていきました。
僕は疑問を解決しようと思い、ドクターに近づきました。


舌を打撲するってことはどんなことが想像できるかな??
舌が腫れちゃうんだ。舌が腫れると気道が閉塞してしまう。
その前に手をうったんだよ。
外傷自体は致死的なものは見られなかったけど、呼吸管理は救急車では難しかったと思う。
だから、ヘリコプターを要請したことはナイス判断だったよ!!ご苦労様!!
後にも先にもドクターにご苦労様なんて言われたのは初めてで、なんだか変な感じがしました(笑)
ただ、陸送では救命できなかった命を、自分の判断で助けれたことは、こんなに誇らしいことはなかったです。
舌の打撲を疑えば、気道閉塞を起こしてしまいます。病院までの距離があればヘリコプター要請しないと救命できません。
救急車とヘリコプターの活動の違いは揺れと轟音です

救急車とヘリコプター違いは揺れと轟音になります。
それは、ヘリコプターは空中を移動すること(揺れ)と、ヘリコプターのプロペラの音(轟音)になります。
ヘリコプターの揺れ(空中を移動すること)
気流の変化で時々ヘリコプターが揺れます。この揺れが普通と違うことが、3Dに揺れます。まさに味わったことのない揺れで、縦、横、そして斜めにも揺れます。
ただ、揺れてもいいように機体に体を固定していたので、揺れ事態で僕が体勢を崩すことはありませんでした。
このように僕も体験していて、揺れをわかっているから、あらかじめ対応策を考えていました。
救急車では、縦揺れ、横揺れがあると思います。
ヘリコプターは救急車の揺れに加えて、斜めの揺れがあります。
それは、空中を飛んでいるそのものだからです。
この揺れ自体は、僕のように体を固定していたら問題ありません。
しかし、もっと深刻な問題があります。
それは「3D酔い」をしてしまう事です。
実生活をしている限り、ヘリコプターのような斜めの揺れを味わうことはありません。それなので、斜め揺れは未体験なのです。

乗る際には。この「3D酔い」には十分気をつけてください。
ヘリコプターのプロペラの音(轟音)
ヘリコプターをプロペラを回す際、プロペラにかかわる音(ローター音、エンジン音)が轟音と化します。
機内に入ってしまうと、会話すらできなくなります。
それなので、↓のようなヘッドセットをつけて、
①轟音防止、②隊員間での会話をために装着します。
ヘリコプター搭乗の際のヘッドセットの例
また、ヘリ自体が無線の基地局になっているので、無線の送受信は可能です。
しかし、

ヘリコプターの搭乗の際は、揺れと轟音がネックになります。
オーバートリアージでも大丈夫!!

ヘリコプター要請時はオーバートリアージでも要請するべきです。
なぜならば、救命できなくなるからです。
今回の僕の症例を振り返ってみます。
僕の判断は、受傷機転と病院までの距離がヘリコプターを要請するキーワードになっていました。
そのキーワードをピックアップしてみると、
場所はその時勤務していた出張所から北にはるか20kmの位置。
中年の男性。高所からの転落。意識はあります。
でした。
受傷機転からでも十分高エネルギー外傷の事案です。
それなので、高エネルギー外傷+搬送距離=ヘリコプターで十分だと思います。
次に、観察結果は、
生理学的評価で、意識はっきりしていて、ショックはありませんでした。
解剖学的評価は鼻からの出血、後頸部痛がありました。また、両上肢の変形もありました。
体幹を観察したら、胸の痛みのみでした。聴診器で呼吸音に左右はなかったので、とりあえず、肺の損傷はないかなと思いました。
でした。
この時、僕の知識不足から、気道閉塞までは予見できませんでした。
しかし、この症例から、
顔面外傷は舌の打撲を意味して、気道閉塞まで発症すると学びました。
それなので、十分ヘリコプター要請案件ということになります。
しかし、これが、現場に着いた際に、高所転落でなく低所からの転落であったり、負傷部位も腰部打撲のみであったらどうでしょうか?

重要なのは初動の対応です。ヘリコプターを要請して現場で状況を確認して、要件を満たしていなかったため、ヘリコプターで搬送しなかったとしても傷病者の不利益にはなりません。
しかし、初動でヘリコプターを要請せず、現場確認して要請要件を満たしていたとしたら、傷病者に不利益がかかります。
救急隊はどんな時でも傷病者に不利益をもたらせたらいけません!!
追伸
どんなときでも、救急隊は最後の「砦」です。
どうやったら、救命できるか、どうやったら、傷病者の最大限の利益になるか考えよう。
諦めたら、そこで試合終了(救命終了)になります!!
(スラムダンクの安西先生の言葉を抜粋しました)

オーバートリアージでも、傷病者のために勇気をもってヘリコプターの要請をしよう。
おさらい!!ドクヘリを要請する要件

ここからは、少し知識を入れてもらうため、「教科書的」なことをおさらいします。
平成12年2月7日付消防救第21号消防庁救急救助課長通知
消防ヘリコプター、ドクターヘリコプターの救急ヘリコプターは、上記通知を元手に出動基準を作成しています。
山口大学病院がまとめてくれている資料が一番わかりやすいので、資料として添付します。
基準として、4つ記載されています。
1 生命危険がある場合
生命危険が生じる場合で、いわゆる、緊急度、重症度ともに高い症例がこれにあたりますね。
例えば、
熱傷程度が大きい
中毒
循環器
呼吸器疾患
重症外傷 等
僕が対応した重症外傷がこれにあたりますね!!
2 緊急処置が必要
緊急処置をおこなわないと、社会復帰に影響がある場合がこれにあたります。
熱傷程度が大きい(たとえば、感覚器や手足指に熱傷を伴う場合)
感覚器の損傷 等
3 救急現場に医師が必要
救助事案で、救出に時間がかかる場合など、医師搬送を短時間に行いたい場合がこれにあたりますね!!
4 短時間に搬送が必要
重症度、緊急度が高く、通常の救急搬送では時間がかかる場合です。
僕が対応した重症外傷がこれにあたりますね!!
このように、総務省消防庁から各都道府県に通知分が出て、地域の特性で実施基準が決められています。
それですので、ここでは、大まかなものはお伝えすることはできますが、細かいところはあなたの所属している実施基準を必ず確認してみてください。
生命危険があり、救急車での搬送時間が長いのであれば、ヘリコプター要請は必須です。
まとめ
・現役救命士HARUの体験談‐顔面打撲は気道閉塞に注意!!‐
・救急車とドクターヘリ活動の違いは揺れと轟音です。
・オーバートリアージでも大丈夫!!
・おさらい!!ドクターヘリを要請する要件

でも、そのヘリコプターがきてくれるから、安心して私たちも生活できているんだね。

そうなんだよね。実際、病院から離れたところに住んでいる方々ってたくさんいるんだよね。
病院から離れているから、「いざ」ってときに不安かもしれない。
でも。このヘリコプターのシステムがあれば、医師が、50km離れていても、救急車とは違い短時間に処置してくれるんだ。
もちろんそこには、救命士の判断力が必要になってきているよね。
僕も、判断力を磨かないとっていつも思っているよ!!

そのおかげで、私たちが安心して暮らせていけるのだから本当にありがたいよ!!
いつもありがとうね!!
これからも、大変だけど、がんばってね!!
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